テレビ東洋第1スタジオ。万里小路、御子左が席に座っている。男が登場。



万里小路 (傍白)あれ!あいつ・・・・
御子左 (傍白)この前古戸と飲んでた時、俺たちに絡んできた奴じゃないか?






司会 皆様こんばんは、「異論!激論!生討論」の時間がやって参りました。私司会の安東宗広と申します。早速今日の論者の方々をご紹介します。自由憲政会から、佐藤師直議員です。佐藤議員は祖先を辿ると鳥羽院の北面の武士たる左衛門尉であった藤原氏まで行きつくとのこと、佐藤姓もそこから来ているという事です。自由憲政会からもう一方、菊池修蔵議員です。菊池議員は現代の和気清麻呂を自任しておられます。それから立憲改新党からお二方、万里小路朝雅議員と御子左隆資議員です。あともう一方、日本共和党から寒河江茂遠議員です。皆様本日はよろしくお願いします。さて、今回の論点は「皇室の維持存続のためにはどうすべきか」という事です。

佐藤 二千年、皇統が例外なく男系で継承されてきたのは、日本人の貴重な伝統です。この計り知れない偉大な財産を捨て去る選択肢など国益の面からもあり得ません。
御子左 ちょっと待ってください。その「皇統が例外なく男系で継承されてきた」というのは今まで証明されたことはありません。
佐藤 証明されたことがないのは、自明だからです。
御子左 なぜ自明だと言えるんですか?
佐藤 今までそれに疑いを持った人がいないからでしょう。
万里小路 特に古代の天皇に関しては、存在自体を疑問視されている天皇が少なくない。ましてそれが男系で継承されているなど、誰も分かりません。
佐藤 分からないなら、それで良いではありませんか。とにかく、男系で継承されてきたのは日本国民の共通認識です。これは論理ではありません。
万里小路 論理でないものをどうやって議論するんですか?
寒河江 ここはキリスト教の公会議の場ではない。教義の解釈なら他でやってくれ。
万里小路 ともかく今日の論点に関してですが、このままいけば壽人殿下が次の天皇になるでしょう。もしそこで、壽人殿下がご結婚できない、もしくは結婚できても男子が誕生しなければ皇統は断絶です。そこで思い出していただきたいのが、皇后陛下が今上陛下と結婚された時の事です。男子を産まない皇后陛下に対して、宮内庁とその走狗となったマスコミによる様々な誹謗中傷が行われ、それによって皇后陛下は病気になってしまわれました。そういう現実を見ていれば、壽人殿下に結婚相手が現れることは、まず期待できない。
御子左 で、壽人殿下がご結婚できなかった場合、あるいは結婚できたとしても男子が誕生しなかった場合の代替案は、用意していないんですか?
佐藤 それは、そうなったら考えれば良いこと。今は壽人殿下に皇位を継いでいただくことだけを考えていればよろしい。
万里小路 本当にそれで間に合うと思っているんですか?どう考えても間に合わない。皇統断絶が確定します。
御子左 あなた方、本当は皇室なんて関心ないんじゃないんですか?
佐藤 失礼な事を言うな。
御子左 じゃあ答えてくださいよ。皇室の存続について考える気があるのかないのか、どっちなんですか?
佐藤 あるに決まってるだろう、そんなもの。
御子左 あるなら何できちんとした対策を出さないんですか?このままじゃまずいと分かってるわけでしょう?
佐藤 ・・・・・・・
御子左 あなた、さっきこれは二千年続いてきた大切な伝統だと言いましたよね。だったらこの伝統が危機に陥っている今、なぜ有効な対策を出さないんですか?あなた本当にこの伝統を守る気あるの?
佐藤 そんなものを用意する必要はない!必ずだれかお相手を見つけられるし、男子も必ず誕生される。
御子左 だからその「必ず」と言える根拠を知りたいんですが。
佐藤 我が国は神の国だ!そんなことが起こる筈がない。危機の際には必ずやかみか・・・・奇跡が起きてお相手が現れる。
御子左 (万里小路へ傍白)おお、よく我慢したな。もうちょっとで神風と言いそうだったが。
万里小路 (御子左へ傍白)変わらんよ、奇跡でも。
寒河江 今から1世紀ぐらい前になるか、どこかの宗教にかぶれた男の言うことを信じた若い将校集団が神国ニッポンとか言って満州で無謀な戦争を始め、収拾がつかなくなり見事に負けて国を潰しそうになった、そんな事もあったな。
万里小路 危機管理の基本中の基本として、最悪の事態を想定するということがあります。トヨタの社長がある時、会社が潰れるかもしれないということは常に念頭にあると言っています。日本一と言って良い大企業のトップがそう言っているんですよ。あなたの振る舞いは、その基本に全く反している。
御子左 あなたに会社の経営を任せるわけにはいかないなあ。ベネフィットだけを見てリスクを全く見ていない。会社を潰してしまう。いや、会社だけじゃない、国会議員も任せられないな。国を潰してしまう。
菊池 まあちょっと待ちたまえ。実はそれに関して、わが党で今案を用意しているところだ。旧皇族の子孫から、皇室に養子に入ってもらうというものだ。
万里小路 それは一体どういうものですか?
菊池 昭和22年に皇籍を離れた宮家の方々がおられる。その方々に皇族復帰して頂ければよい。
御子左 旧皇族の子孫というのは、我々と何も変わらない、ただの一般人ですよ。知らないんですか?それに皇室典範第9条で、「天皇及び皇族は、養子をすることができない」と規定されていますが、その点はどうするんですか?
菊池 それは改正すればよかろう。
御子左 その関連で言うならば、先程「皇族復帰」と言っていたが、それは誤りだ。今の旧宮家の方々はもともと皇籍になかったのだから、皇籍の新規取得というべきだ。
菊池 ならばそれで良かろう。何か問題があるか?
万里小路 あなた、最初に自分は現代の和気清麻呂となると紹介されましたよね。その和気清麻呂が宇佐八幡宮から持ち帰った神託がどういうものか、ご存じないんですか?
菊池 いきなりそんなことを言われても答えられるわけがない。常に憶えていろと言うのか。
万里小路 簡単に言うなら君臣の別は侵してはならないということです。1200年の伝統を持つ、それこそ男系男子とは比べ物にならないほど長い伝統です。それを壊す行為だという事を認識していますか?
御子左 それに、仮にそれを認めたとしても、一般国民の中で旧宮家の子孫だけを対象にするのは憲法第14条に抵触します。認めるなら国民全員を対象にすべきです。
佐藤 具体的に言ってくれ。14条のどこに抵触するんだ?
御子左 門地による差別です。
菊池 ああ、それなら内閣法制局が差別ではないと明言した。あなたは知らないかもしれないが。
御子左 実は、その明言というものが、憲法に抵触するものでした。あなたは御存知ないかもしれないが。天皇・皇族は憲法の門地差別禁止の例外であり、皇族の範囲は法律、つまり皇室典範ですね、それに委ねられているので、旧宮家系男性を皇族にする法律を作れば問題ないというものでした。という事は、その法律自体が憲法14条に抵触します。したがってそのような法律は作れません。
佐藤 内閣法制局は民意の代表だ。だから任せておけばいいじゃないですか。
万里小路 それはつまり民意の代表なら絶対に間違えることはないという前提に立っています。それならば民意の代表の無謬性を証明すべきです。
寒河江 それはある意味民主主義の否定ではないか。もし間違えない人間がいたならば、その人間に全て任せておけばいい。何も皆で議論する必要もない。
万里小路 そう、人間は間違える動物だ。だから一人の人間に任せたら危険なんだ。
佐藤 話を戻すと、壽人殿下もご結婚が難しい。だからこのままではだめ。そして叔宮殿下もご結婚が難しい。だから天皇になっても意味がない。それ以外の道しかない。
御子左 (傍白)難しいから意味がないとは、随分飛躍したな。
万里小路 つまり、共和政に移行すべきという事ですか。
佐藤 そうは言っておらん。旧宮家の皇族復帰しか方法はないと言っているのだ。
寒河江 旧宮家の皇籍取得希望者については、以前に調査した結果がある。それによると
 寒河江、資料を見せる。
寒河江 皇籍取得の希望者は、ゼロだ。
一同 ・・・・・・・
寒河江 15歳未満の方についてはその保護者の方に、15歳以上の方については本人に、確認したところ一人もいなかった。
佐藤 ちょっと待て!その言い方は誤解を招く。
菊池 希望者ゼロだと不可能なのか?では何故叔宮殿下が天皇になればいいと言うのだ?殿下が希望しているのか?「希望していないなら不可能」というのが、あんたがたの主張だろう?
御子左 (傍白)お、論点ずらしの技を使ってきたか。そりゃこれだけ痛いところを突かれればな。
万里小路 (傍白)まるでプトレマイオスの周転円だな、不具合をなくすための修正が次の不具合を呼び、際限なく修正を繰り返して結局解消されることがない。
御子左 一つはっきりさせておきましょう。「旧宮家で皇籍新規取得の希望者がゼロ」なのだから、「旧宮家の皇籍新規取得のプランは不可能」という事です。そこは理解できますね?
佐藤 皇統は男系で繋がれてきた。男系とは、つまり神武天皇の遺伝子の事だ。それが維持できなければ意味はない!
御子左 では計算してみましょう。今上陛下に神武天皇の遺伝子がどのくらい残っているかを。いいですか?これはもちろんあくまで神武天皇が実在していたと仮定しての話です。一般にある個体の遺伝子が次代に残る割合は約50%。という事は、神武天皇の遺伝子が今上陛下に残っている割合は全体の2の125乗分の1です。つまり、99.999999999999999999999997%は他人の遺伝子です。
寒河江 そんなのゼロと言って良いだろう。無意味だな。
佐藤 では一体どうしろと言うのだ。
万里小路 女性宮家を作って、双系での継承を可能にすればこの問題は解決できます。
佐藤 そんなものできるわけがない。過去の女性天皇だって繋ぎの役割しかなかった。まして女系での継承など・・・・
万里小路 そんなことを言ったら、男性天皇だって繋ぎですよ。過去の天皇は全て繋いで繋いで、今上陛下まで皇位を渡してきているんじゃありませんか。
佐藤 そんなことを言っているのではない!男性天皇では継承が難しい時に限って、女性天皇が現れたに過ぎないと言っているんだ。
寒河江 それは裏を返せば、男性天皇ではどうしようもない問題を女性天皇で乗り切って来たという事では?
御子左 そうですよ。佐藤議員はどうやら中継ぎというものに対して良い印象を持たれていないようですが、中継ぎが存在しなかったらそもそも現代まで皇室が続くこともなかったわけです。
佐藤 過去の女性天皇はつなぎだったとさっきから・・・・
万里小路 だったら今回もそれでいいじゃないですか。現状が危機にあることはあなた方も認めますよね?だから、まずは次へのつなぎとして叔宮殿下に天皇を継いでいただく。その後に、男子の皇族が誕生されれば譲位して頂く。譲位に関しては既に、上皇陛下が先例を作ってくださったからそれを踏襲すればよい。歴史的にも先ほどあなたがおっしゃったように、今までの危機をそのような形で乗り切ってきたわけでしょう。一体何が問題なんですか?
御子左 これなら先例があるからあなた方が大好きな官僚答弁「先例がないからできない」という事にもならない。
万里小路 後醍醐天皇も満足するだろう。
佐藤 いいか、過去に女系の継承は一つもなかった。これは事実。その伝統を捻じ曲げるなら、この国は終わりだ。
御子左 それが正しいかどうかは措くとしても、もし女系継承でなければ皇統は断絶するという場合、皇統断絶で構わないということかな?
佐藤 仮定の話には答えられない。
御子左 (傍白)じゃあ何のために今日ここに集まってきたんだよ、まったく。
万里小路 元明天皇から元正天皇への継承はどうなんですか?
菊池 それが女系継承だと言うなら、その母である元明天皇は息子である文武天皇から継承している。これは何系継承に当たるのかな?
寒河江 系図を遡っての継承は、・・・・定義されておらんのじゃないか。
万里小路 そう言われれば・・・・
 (菊池、しまった、余計な事を言ったという顔をする)
御子左 継承元の性別で判断するという原則からすれば男系でしょう。だから元明天皇から元正天皇への継承も女系になるんじゃないですか。
佐藤 皇位継承資格というのは生まれたときに決まる。元正天皇は生まれたときに草壁皇子の子なので皇位継承資格があった。天皇になったかどうかは事後的なこと。こんな簡単な理屈は馬鹿でも分かるだろう。元明の譲位により元正に初めて皇位継承資格が発生したのならそうだろうけど、実際は皇位継承資格のある人から皇位継承資格のある人に受け継がれただけ。文武天皇が長生きしていたら、皇位継承資格のある元正は即位しなかった。単純明快な話ですよ。
万里小路 で、それが皇室の安定的な維持・存続と何の関係が?
佐藤 何?
万里小路 ここはあなた方の知識を披露する場ではなくて、皇統断絶の危機をどうやって回避するかという具体的な問題の解決の場です。そこを間違えてもらっては困る。よくあなた方はそうやって間違えて、何の解決策も見出せず貴重な時間を空費して終わりますが。
御子左 (傍白)しかもその知識は間違いが多い。
 元正天皇については、
万里小路 で、結局、今後皇位が安定的に継承できる方法はあるんですか?そこが一番大事な事なんですが。
御子左 よろしいか、あえて言いますが、幸運にも壽人殿下に結婚相手が見つかり、また幸運にも男子が誕生されたとしましょう。それで皇統断絶の危機が解消されたか。否です。次の代にもまた同じ問題が残ります。そうして今後ずっと、皇統断絶の危険と隣り合わせの、綱渡りの継承が続きます。今私は今後ずっとと言いましたが、実はそれは長くは続かない。確率論的に言うなら数代先で断絶することが見えています。
万里小路 今日のテーマは条件付きの安定、例えば「1代先の安定」でも、「2代先の安定」でもなく、「無条件の安定」ですからね。
御子左 貴方の言っている事は、皇位の安定的な継承という目的に全く合致していない。意味がないんです。
万里小路 自分からは方針は示さない、でも反対はする。そんな人の話を誰が聞きますか?
菊池 ああ、わかったわかった。それはそれとして、他にも問題はあるんだから、まずはそっちを片付けよう。
御子左 (傍白)一番大事な所を措いといて、何言ってるんだ。
万里小路 ところで、この問題を考えるうえで絶対に外せないのが、他ならぬ天皇陛下をはじめとした皇族の方々のお考えですが、例えば皇位の安定的継承に関して、天皇陛下はどうお考えなのか、御存知の方はいますか?
 一同無言。
佐藤 そんなもの知っている人間などいるわけがない。皇族が個人的見解を述べるなど立場上許されておらん。
御子左 でも、お言葉の詳細をよく見ると、お考えになっていることが分かりますよ。
 御子左、資料を取り出す。
御子左 叔宮殿下が誕生されてすぐの、現上皇陛下の言葉。
 皇族の立場について男女の差異はそれほどないと思います。女性皇族の立場は過去も大切であったし、これからも重要と思います。
 平成22年、今上陛下の皇太子時代の言葉。
 その時代時代で新しい風が吹くように、皇室の在り方もその時代時代によって変わってきていると思います。
 平成21年4月、皇太后陛下の皇后時代の言葉。
 型のみで残った伝統が、社会の進展を阻んだり、伝統という名の下で、古い慣習が人々を苦しめていることもあり、この言葉が安易に使われることは好ましく思いません。
 また、秋子女王殿下はその著書の中で、「伝統と革新は表裏一体。守るだけでは残らない」と書かれています。
 これをみると、伝統を墨守することが必ずしも良いことだとは考えておられない。むしろその時代時代に合った形に変えていくべきというお考えが読み取れます。
万里小路 そろそろまとめに入らせてもらいますが、結局、最大の問題点は男性皇族の結婚が極めて難しいという事に尽きる。なぜ難しいか、それは相手の女性が男子を産むことを強制されるからだ。なぜ強制されるかというと、男系男子の縛りがあるからだ。・・・・と、全部繋がってきます。つまり、現在の皇室の危機は男系男子で繋ぐという原理的な問題にあるわけです。この男尊女卑の思想を捨てない限り、この問題は今後も永久に続きます。このような男尊女卑の思想と心中するか、ここで決別して今後も皇室を続けていくかという、つまりはそこに収斂します。
御子左 そろそろ本音を聞きたいんですがね。本当はあなた方、皇室がなくなって欲しいんでしょう?
菊池 何だと?
万里小路 共和政に向かって刻一刻と近づいているのに、何一つ有効な手立てを示せないという事は、結論は唯一つ、本当は皇室の維持なんか知った事じゃない、どうでもいい、という事です。
御子左 実際、男系絶対主義というのは表向き皇室への忠誠を示しながら、その実皇室を「安楽死」させるための実に都合が良い「道具」ですからね。綺麗事を並べておきながら確実に皇室を「消す」ことができる。
万里小路 あなた方ははっきり言って、皇室を玩具にして遊んでいるようにしか見えない。
御子左 表面上は皇室を敬愛しているように見せて、その実あなた方の脳内にしかない、妄想の皇室にいつまでも浸っている。
万里小路 私が恐れているのは、そうやって天皇をこの国から消し去って、安心し切った時に誰も権力を掣肘できない独裁者が出現することです。今の国会の惨状を見てごらんなさい。全権委任法などろくに審議もせず簡単に通しそうです。第二、第三のヒットラーがすぐにでも現れるでしょう。・・・・・あなた、もしかして、それを狙って・・・

 司会、万里小路の発言の途中で席を立って論者たちを背景にしカメラの前に立つ。

司会 ・・・・えー、まだまだ議論は続くようですが、残念ながらお時間が来てしまいました。それでは皆さんごきげんよう。






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