古戸 勉指揮による歌劇「フィガロの結婚」終演後、劇場に併設されたカフェバーで。古戸、万里小路、御子左がテーブルを囲んでいる。
万里小路 古戸君の新境地の開拓を祝して、乾杯!
御子左 お前も変わったよな。昔は「俺はオペラを必要としていないし、オペラの方も俺を必要としていない」なんて言っていたのに。
古戸 人生ってやつは、本当に一筋縄ではいかないねえ。
万里小路 どうだ、そのうちワーグナーなんかもやってみたら?
御子左 さまよえるオランダ人、パルジファル、そしてなんと言ってもニーベルングの指環・・・・
古戸 冗談言うな、あんなくどい、押しつけがましいものなんかやるかい。モーツァルトの洗練された、自然さからは対極にある。俺に言わせれば、ワーグナーは二流の作曲家だよ。
御子左 ところで、序曲を聴いている時に感じたんだが、微妙にテンポを揺らしてなかったか?
古戸 さすがはお目が高い!他の耳なし芳一さん方とは違いますなあ。
万里小路 声が大きいぞ、古戸。それにそういう言い方は無用な敵を作るから止めとけよ。もう酔ってるのか?
御子左 さっき公演を終えたばかりだから、疲れてるのは分かるけどさあ。
古戸 ああつい、失礼。・・・まあ、モーツァルトは遊びの人ってことを今更ながら思い出したんでね、それをテンポで表現したって訳だ。一定のテンポでしかつめらしく、なんてのは考えてみればまるでモーツァルトらしくないとは思わないか?
万里小路 つまり、それが今回のお前の表現という事か。それで「フィガロ」を演ろうと思ったのか。
古戸 昔はモーツァルトなんてまるで関心が無かったのになあ・・・・何ていうか、人生の奥深さを見せつけられる思いだよ。
御子左 「フィガロ」のパリ初演はいつだったっけ?
古戸 1793年3月だな、確か。
御子左 という事は、ルイ16世の処刑の直後か。まさにフランス革命が進行中の公演だったわけだ。
万里小路 ちょうどここにフランス革命史の専門家がいるから、講義してもらおうじゃないか、諸君。
御子左 やめてくれよ、そういうの。大学の卒業論文のテーマに選んだだけだってのに・・・・。まあでも、ちょくちょく調べながらでいいんだったら、やってみようか?
御子左、携帯電話を取り出す。
古戸 フランス革命と言えばさあ、年だけじゃなくて月や日まで問題になるよな。下手をすれば日単位で事が動いていくっていうのは、世界史では他に例がないんじゃないか?
万里小路 それに匹敵するのは、日本史では本能寺の変ぐらいかもしれないな。
古戸 あ、それがあったか。緻密さではそちらの方が上か。
万里小路 徳川家康の光秀への援軍があと数日、動くのが早ければ、援軍が間に合っていれば、信忠が予定通り動いていれば、松井康之が羽柴秀吉に謀反の計画を漏らさなかったら・・・とかな。
御子左 ちょっと長くなるが良いか?まず、フランス史は革命以前と以後の二つに大きく区分されるぐらい、大きな事件だった。
万里小路 まあそりゃそうだよな。ある意味今のフランスの基礎を作ったと言って良かろうよ。
御子左 そして、意外かもしれないがフランス革命というものは「必然の結果」ではなく、「偶発的な事件」だったという事だ。いくつもの要素が、ある意味「奇跡的」に集まってあのような革命として爆発した。
古戸 そうなのか?でも、その要素が集まったことそのことが必然的に革命の原因となったとは言えないか?歴史とはそういうものだというふうに認識しているが。
御子左 もちろんそういう意味じゃない。誰かが計画的に、人為的にあのような革命を起こそうとしたわけではなかったという事さ。
古戸 共和政を作ることを目的として革命を起こしたわけじゃなく、結果的に共和政に「なってしまった」という事か。
御子左 そんなところだな。そういう意味では、さっきの本能寺の変とは正反対だな。そうだろ、まで?
万里小路 ああ、よく誤解されているが、本能寺の変は偶然ではなく必然だった。
古戸 へー、そうなんだ?
万里小路 変の時、信長はいわゆる「策士策に溺れる」という状態にあった。天下統一を成し遂げた後に、必然的に起こる武士の処遇。信長が出した答えは「唐入り」だった。それは配下の武将たちにとっては、厄介払いで外国に追い出されるということを意味した。そして徳川家康を本能寺で殺害するために、必要最低限の武装以外は丸腰同然で自身も本能寺に入った。徳川家康が、羽柴秀吉が、そして最も危険を感じて以前から謀反を考えていた明智光秀がその機会をみすみす逃すはずがない。ついでに言えば、信長を飛躍させた信条たる実力主義が、ここで信長自身の足元を掬った格好だ。実力主義というのは聞こえは良いが、言い換えれば実力以外に人を結びつけるものがないということだ。そんな状態で、実力を評価されなくなる未来が見えているとすれば、一体誰がついていくか。すでに信長は自分自身で、破滅の種を蒔いていたんだ。
御子左 緻密な策を弄しようとすればするほど、穴ができてくる。そして組織が巨大化すればするほど、その穴が拡大されてくる。しかも、本人はその穴に気付くのが難しい。
万里小路 岡目八目、ある命題の裏は一般には真ではないが、この場合は真だな。
万里小路 光秀には光秀の、一族滅亡の危機を回避しなくてはならないという事情があったことは理解している。その上で、俺は本能寺の変が最終的に成功しなかったことは日本のために良かったのではないかと思っている。ここで明智・徳川同盟が近畿以東を制圧してしまっていたら、日本はまた群雄割拠の時代に戻っていた可能性がある。
同じように、徳川家康が豊臣家を滅ぼしたのも非情なようだが正解だ。あそこで下手に温情をかけて生かしておいたら、反幕府勢力糾合の旗印になってしまう。源頼朝を生かしてしまった平家がその後どうなったか、家康は知っていた。歴史は繰り返すという言葉は正確には、歴史を知らない奴は歴史を繰り返してしまう、ということだ。
古戸 ほう。
万里小路 あ、因みに俺は豊臣秀吉という人間が大嫌いで、できることなら歴史から抹殺したいと思うぐらいだ。信長の「唐入り」構想を内心恐れていたくせに、自分が支配者となってからは信長と同じことを考え、しかもそれを実行に移した。その結果、対馬の宗家をはじめとしたおびただしい数の人間を不幸のどん底に突き落とした。政治家としては史上最悪の水準に類する。人間的にも卑しさ丸出しだし、まさに日本の毛沢東だ、俺に言わせれば。極めつけは唐入りの成功後、天皇の国外追放まで考えていた事。下手をすればこの時代に皇統断絶、豊臣秀吉による独裁国家・日本が誕生していたんだ。豊臣家が滅びたのは誠に目出度い、いい気味だと思っている。
御子左、古戸 ははは・・・・・・・!
万里小路 あ、失礼。大分脇へ逸れてしまったが、フランス革命に戻るか。
御子左 国としては、七年戦争の敗北による広大な植民地の喪失とアメリカ独立戦争への介入による財政危機があり、増税によって解消する必要があったこと。民衆としては、約20年に及ぶ主に食糧不足によるインフレの進行、それに伴う生活苦、特に1788、89年の凶作による食糧危機。さらに、各身分間や身分内の格差による緊張があらゆる所で起こっていたこと。これらが三部会でまとめて解決されると期待され、裏切られた。いささか乱暴だが、それが革命の始まりと言って良いだろう。
万里小路 おお、懐かしい単語だ。何となく昔の記憶がよみがえって来たぞ。
御子左 それと、最初の偶発的な事件という事と繋がってくるが、革命は最初から共和制を目指して一直線に進んだわけじゃない。最も良い政体は何か、あれこれ模索しながら紆余曲折を経ていったんだ。最初は憲法を制定することによる立憲君主制を目指した。ところが、1792年4月にフランス議会がオーストリアに対して宣戦布告し、対外戦争がはじまると、9月にはパリから至近にあるヴェルダンがプロイセンに奪われ、国そのものが存亡の危機に陥った。この混乱と恐怖などによって結局1792年9月に、国民公会は共和国宣言を出す。
万里小路 共和政が最善という理念があったわけじゃないんだな。
御子左 そういうこと。その証拠に、革命の最終盤でも王党派が生き残っていた、しかも地方によってはかなりの勢力を持っていた。
御子左 フランス革命を端的に表す鍵となる言葉を選ぶなら、「統合」だな。
万里小路 どういう意味だ?
御子左 地方ごとにバラバラだった人間活動の要素・・・平たく言えば文化、か・・・それを統合したという事だ。言語、法、行政組織、教会組織、税制、度量衡、通貨・・・・同じ国とは思えないほど諸制度がバラバラだったんだ。
万里小路 戦争で、ある村に援軍としてきた味方の言葉が分からず敵の言葉が分かるなんてこともあったらしいな。
御子左 それから、公債も統合された。1793年8月に、国民公会の財政委員会によって債権者に5%の利息を保証して国家のあらゆる負債を『公共借入金台帳』に統合した。
万里小路 ああ、それは賢明な措置だ。我が国もこれくらい思い切った財政再建策を実行すべきだな。
御子左 もう一つ、「自然の重視」も挙げていいか?メートル法に象徴されると思うが、単位制定の基準を人間から自然に移した。宗教ですら、自然信仰を基礎にした宗教を新たに作ろうとした。カトリックの信者が人口の9割以上を占める国で、そんなことを実行に移したことに、革命政府の「本気」が見える気がする。
万里小路 さっき革命前夜のフランスはあらゆる階層における摩擦が起こっていたという事を言ってたが、三つの身分間だけじゃないのか?
御子左 そうだ。国王と貴族、上級貴族と下級貴族、国王と聖職者、教区司祭と高位聖職者、親方と職人など・・・
万里小路 なるほど、もう爆発寸前だったって訳だ。
御子左 中でも経済的要因は重要だが、例えば商人にとって不満だったのは、関税の存在や地方によって税制、度量衡、通貨が異なっていたこと。特に関税については、国内よりもむしろ国外との取引が容易かつ有利だったこと。
万里小路 そりゃ酷い。
古戸 それにしても、いくら不満があるとはいえ、何故民衆が目の前の領主たちだけでなく国王に直接反抗することになったんだ?普通なら、そこまで考える頭もないから自分たちの周りにいる連中に当たり散らして終わりそうなものだが。
御子左 国王には、人民の幸福という神に対する責任があると考えられていたからさ。
古戸 ほう、そんな思想があったとは知らなかった。
御子左 国王の為人についてだが、ルイ16世という人は、控えめで内気な性格だったそうだ。要は優柔不断だったという事で、三部会の投票方法について決められなかった。結果的に身分別投票を求める貴族の主張を黙認することになり、第三身分の激しい怒りを引き起こした。
万里小路 決断すべき時にできなければ破滅を引き起こす。我々も肝に銘じておくべきかもな。
古戸 革命を可能にした諸原因についてはどうかな?最も重要なのは経済的要因だとは思うけど。
御子左 百科全書に象徴される知的水準の底上げ、 1798 年8月の法律による同業組合の廃止や関税などの経済障壁の撤廃の結果としての富の増大による従来の安定した体制の動揺、といったところか。
万里小路 ルソーが導入した「一般意思」という概念があるよな。要は神の言い換えだろ?妄想もいい所だと思うが、この妄想がジャコバン派の主たる行動原理になるから馬鹿にできぬ。
古戸 革命がもたらした成果についてはどうかな?
御子左 「革命」という言葉の象徴的な意味からすれば、宗教と暦に関して最もその思想が現れていると言えるな。宗教に関しては1794年に革命宗教が創設されている。尤も全ての人に信仰の自由を保証したうえでだが。革命歴は日曜日の礼拝や古い生活リズムを無視したものだったため激しい反発を招いた。
古戸 芸術に与えた影響も忘れないでくれよ。1793年8月にはルーヴル美術館が設立されているな。同じころ国立劇場も開館している。
御子左 ルーヴル美術館といえばさあ、ピラミッドだのなんだのゴテゴテと設置してるけど、あれについてはどう思うよ?
古戸 率直に言って、せっかくの景観が台無しだ。余計な事をしてくれたよ、本当に。
万里小路 さっき、人民の幸福という神に対する責任があるという話があったよな。考えてみれば、政治の目的とは人民の幸福であって、政治制度はその手段にすぎない。極端な話、人民の幸福が実現できれば共和政だろうが独裁政治だろうが、何でもいいんだろ?
御子左 まあ実際には、例えば独裁政治では人民の幸福は保証できないしその事例も豊富にある。だから「もっとも間違いがない政治制度」として民主主義が採用されているわけだ。
万里小路 それにしてもこういう混乱状態だと、いろいろ理不尽なことが起こっただろうな。一番ありそうなのは出所の分からない噂で誰かを攻撃したりとか。
御子左 そうだな・・・・流言飛語による告発の例としては、こんなのが残っている。
御子左、携帯電話を操作しながら。
御子左 マチューが言うには、ピエール・フールの語ったことは、市民ルージェの店で年長のソザックが「国民公会が打倒されれば神はお喜びになる」と述べたと、彼女がその配偶者に言ったという話だ。
万里小路、古戸 ひでえ・・・!なんだそりゃ。
御子左 あとは、こんなところか。1794年初頭、ボルドーの大劇場で戯曲「人の世は夢」が上演された際、俳優のアルシュが「わが高貴なる王よ、末永くあらんことを!」という台詞を口にした結果、観客からの非難を受け軍事委員会によって断頭台に送られた。その彼の処刑前の主張が「だって、それが私の台詞だったんです!」とも。
古戸 ・・・・。いや気の毒という言葉では済ませられないが、しかし気の毒というほかはないな。
御子左 1792年4月にフランス議会がオーストリアに対して宣戦布告してから、フランス国内は悲惨な事件の数々が起こる。以前は政治的対立は命まで取る争いではなかったが、それからは殺すか殺されるかの問題になった。
万里小路 自分こそが正義だと信じているから、宗教戦争に匹敵する蛮行があちこちで起こるよな。
御子左 革命のような国全体を巻き込む大きな事件が起これば、当然大きな社会の混乱が起こる。そんな時は本当に多くの悲劇が起こるもんさ・・・・もし自分の妻や恋人が謂れの無い罪でギロチン台に送られたとしたら、お前は耐えられるか?
御子左 それにしても、最上の政治制度として共和政を選んだわけじゃなくて、結果的に共和政になったと言っても良いと思うが、日本も近い将来そうなる可能性があるわけだ。
古戸 あー・・・・言いたいことは分かる。
万里小路 まあまあまあとりあえず置いといて、そういえばお前、いつか共和政がひどい政治制度だと言っていたが、古代の共和政ローマはどうなんだ。そんなにひどい制度なら、なぜあれだけ長期間続いたんだ。
御子左 あれはいくつかの原因があるが、政治制度に限って言うなら、重要なのは複線型だという事だ。平時と非常時には制度が切り替わる。民主主義の弱点の一つが、決定に時間がかかるという事だ。即断即決が求められる非常時において、いちいち議論を尽くして・・・・なんてやってたら対応できない。だから古代ローマにおいては、いざという時には共和政は捨てて独裁体制を採った。
万里小路 なんかそれって、唐の律令制を思い起こさせるな。皇帝は唯一法律に縛られない存在として君臨し、普段は律令に従って官僚が業務を行い門下省が皇帝の権限を掣肘するが、非常時には皇帝の裁断によって決定するという。律令国家時代の日本ではその門下省に当たるのが太政官だな。藤原宮子の称号事件に象徴されるように。
御子左 それと比べるとちょっと違うのがゲルマン人かな。日常の些細な事は長老たちが決めてしまうが、重大な案件は皆が集まって議論して決める。
万里小路 今の日本には、その非常時に対する備えがない。だから、大規模な自然災害などに迅速に対応できず、被害を拡大させている。
古戸 でも、それは一歩間違えれば危険じゃないか?確か緊急事態条項とかいうものも議論されているよな。
万里小路 それは確かに。実際には何も起きてなくても、内閣が緊急事態と宣言すれば発動できるような穴だらけの制度だったら即、専制国家の誕生だ。
御子左 それから、平等の原理の無制限の使用も、場合によっては国を破滅させる原因となる。教育に象徴されているように、全員に同じ教育を施すというのは一見良い制度と思うかもしれないが、その基準をできない子に合わせてしまうとできる子にとっては学校という場は退屈で苦痛な時間を作り出す場になってしまう。本当に能力のある子供なら数が月で修得してしまう内容を数年かけてやるというのは、能力のある子供にとっては貴重な時間の浪費でしかない。結果せっかくの芽を潰すことになる。諸外国と比べても日本の教育水準は落ちていく。いささか品のない話になるが、たとえばGAFAのような世界を変えてしまうような企業、そういう企業を立ち上げる知性は日本では生まれない。全部アメリカに持って行かれてしまっている。今後その差が埋まる見通しはなく、むしろ差が開いていく一方になる。
万里小路 それは分かる。できる子にはそれにふさわしい教育内容が必要だろうな。戦後エリート教育を捨ててしまったのは大きな間違いだった。
御子左 「平等の原理が国民を隷属に導くか自由に導くか、文明に導くか野蛮に導くか、繁栄に導くか困窮に導くか、それは彼ら次第である」
万里小路 それは・・・・
御子左 トクヴィルの「アメリカにおけるデモクラシー」の結論の一節だ。
万里小路 今なお、重い問いかけだな、それは。
御子左 フランス革命に匹敵するような大変化が、この日本でも起ころうとしている。それも、そう遠くない未来に。
古戸 それは、・・・つまり、皇室が消えるという事か。
御子左 もちろん、そうだ。
古戸 もし本当に皇室が消えたら、どうする?どうなる?
万里小路 いろいろな影響が予想されるが、ポジティブなものは少なく、ネガティブなものが多くなるだろうことは容易に予想される。
御子左 例えばフランス革命時代、教区の整理によって多数の聖職者が失業した。もし皇室が消滅すれば、同じように神社の整理によって多数の関係職員が失業するのではないか。
万里小路 皇室が受け持っていた様々な公務を、どうするか。
御子左 まあとにかく問題は山積するだろう。そういう危機意識を、もっと国民は持つべきだ。
万里小路 危機意識がないとどうなるか・・・・知らぬ間に事態が進行していって、気付いた時には手遅れだ。
御子左 そして、共和制への移行が確定してから、慌てて対応を協議するわけだろう。
万里小路 まるでブレグジットが決まった時のイギリス国民だな、EU離脱が決まってから、それが何を意味するのか慌てて調べ出すという。
御子左 有権者なんてそんなもんだ。真面目に考えてる奴はほんの一握り。
万里小路 おい、声が大きいぞ。お前の支持者に聞かれたらどうするんだ。
御子左 だからぁ、俺を支持してくれている真面目な皆さんがほんのひと握りってことだ。
万里小路 とにかく、それこそ「無機質な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜目がない、或る経済的大国が極東の一角に残る」ということになるだろう。
万里小路たちのテーブルに男が近づく。
男1 聞き捨てなりませんなあ、どうも。
男2 この国から皇室がなくなる?そんなことはありえませんよ。
万里小路 あなた方は・・・?
男1 ちょっと気になったものでね、あなた方の話が。
男2 皇室は太古の昔から男系男子で連綿と続いております。これからもそうです。
万里小路 いや、それは事実と違うが・・・
御子左 それはともかく、現在皇室が消える危機にあるのは否定できないと思いますが。
男1 危機にある?そんな事がある筈がない。危機のように見えても、最後は必ず解決するようにできているんですよ。
御子左 いや、現状を見れば・・・・
古戸 おい、そろそろ出ようぜ。
万里小路達、店を出る。
古戸 ベートーヴェンの第九ならば、第3楽章で夢の中から目覚めて終楽章で力強く前を向いて進んでいく筋立てになっているが、あの人たちは永遠に第3楽章から出てこれないようだな。
万里小路 警報を鳴らしても気付かないんじゃ、仕方ないさ。
御子左 じゃあ、またな。
別れて舞台の端まで進んで、万里小路は振り向く。
万里小路 おい古戸!
古戸は振り返る。
万里小路 お前は、この国に未来はあると思うか?
古戸は首を振って何か言ったように見えたが、万里小路には聞こえない。
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