「専門家が素人に後れを取る場合が、往々にしてある。長所より短所を、好機より危機を見てしまうからだ。」(第1巻・110頁)
アスターテ会戦でラインハルトがどう軍を動かしたか、ボルテックに予想を尋ねられて正解をずばり言い当てたときの台詞。好機の可能性と危機の危険性とを天秤にかけて、どちらを優先させるべきか。専門家といえどもそのどちらの可能性がより勝るか瞬時に判断することはできない、ということだろう。故に専門家も間違いを犯す。
ある状況をプラスと見るかマイナスと見るか、現実はなかなか微妙だと思うが、つまりはどちらとも決めがたいという程度にしか情報が集まっていないという事だろう。その中で、プラスに持っていく条件を揃える“力”が、成功を収めるための鍵となるのだろう(それについては本文中にも触れられているが)。それを“若さ”と言っても良いのだろうか。
「どんな組織でも機械でも、運用するのはしょせん、人間だ。」(第1巻・112頁)
アスターテ会戦での「魔術」を見た後、ヤンについて情報を集めるようボルテックに指令を出したルビンスキー。この男は本当に鋭い。高性能の機械が、それを使う人間の技術によらず高い能力を発揮しているように見えるのは、作り上げる段階での精度が高いということだが、それでも完全に使い手によらず高性能を維持できる機械というのは存在しない。同じ動作をする(ように見える)機械でさえそうなのだから、人間の集まりである組織は言わずもがなである。
「権力者自らが法を尊重しないのだから、社会全体の規範がゆるむ。」(第3巻・159頁)
自由惑星同盟にて「査問会」の開催が決定したという報告を受けたときの台詞。社会的地位が高い人の振る舞いが社会全体にどう影響するか。徳の低い人間がその社会の舵取りを任されたらどうなるか。「力を持った愚者」が如何に有害か。
ある社会の中の行動規則として法が唯一絶対のものであるなら、その法が崩壊してしまったときどうなるか。よく考えて欲しい。
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