人はなぜ、自分にとってもっとも必要なとき、それにふさわしい年齢でいることができないのだろう。(第1巻・134〜135頁)
アンネローゼを皇帝の手から救うことのできなかったキルヒアイスの痛切な思い。と同時に、多くの人が共有する思い。あるいは人生とは、こういうものなのか。
「ひとつの失敗をもって多くの功績を無視なさるようでは、人心をえることはできません。」(第1巻・369頁)
アムリッツァ会戦後、ラインハルトはビッテンフェルトの失敗を厳しく責める。その後、ラインハルトに考え直すよう求めたキルヒアイスの台詞の中に、この言葉が出てくる。組織の上に立つ人間は個人的な感情で動いてはならない。当然のことだが、それを完璧に実践するにはそれなりの経験が必要になる。
「ラインハルトさま、貴族たちは、やってはならないことをやりましたが、ラインハルトさまは、なすべきことをなさらなかったのです。どちらが罪が大きいのでしょうか」(第2巻・292頁)
ヴェスターラントへの核攻撃を阻止しなかったラインハルト。カント風に言えば、ラインハルトは「他人に対する完全義務を履行しなかった」ということにでもなるのだろうか。キルヒアイスがラインハルトの本隊と合流したときから、こうなることは予期されていたのであろうか。キルヒアイスにとっては当然の、ラインハルトにとっては避けることのできない一撃。オーベルシュタインがこの策を提示したときから、この結果は定まっていた・・・?あるいはそれよりも前、オーベルシュタインがラインハルトの傘下に入ったときから・・・、いや、それは考えすぎだ。人間に自由意志がある以上、どこかでこの流れを断ち切ることはできたはずなのだ。・・・
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