その欠点や弱点もふくめて、ラインハルトがラインハルト自身でありつづけることは、どれほど貴重なことであろうか!(第3巻・349頁)

 ラインハルトが完全無欠の存在ではないことに、ヒルダは価値を見出す。これは、彼と親しい関係にある人にしかわからない貴重さかもしれない。しかし、それを敷衍して、誰にでもそのような貴重さがあると考えれば、一様ではない多様な世界のよさを感じ取ることができるのではないだろうか。

 彼女に言わせれば、ワインにも宝石にも専門家がいるので、蘊蓄は彼らにまかせておけばよい、自分たちに必要なのは信頼するにたる専門家を見ぬく目だ、というのである。(第6巻・43頁)

 ラインハルトが新皇帝となった後のパーティーで、彼女は彼女らしくワイン談義には参加しなかったが、その彼女の言い分がこれである。

「たぶん人間は自分で考えているよりもはるかに卑劣なことができるのだと思います。平和で順境にあれば、そんな自分自身を再発見せずにすむのでしょうけど・・・・・・」(第7巻・251頁)

 ラインハルトがレベロの暗殺者たちを面接し、処刑を命じた後で。自分の身の安全を図るために他人を殺す。そういう状況になってはじめて人間は、自分の卑劣さを確認しえるのだろうか。

戻る