森田信吾「鈴木商店」『栄光なき天才たち・第3巻』
11頁 「大混乱」とは、どのような影響があるか判断がつかないさまだ。良いのか悪いのか、それすらも分からなかっただろう。
22頁 台湾産樟脳の官営専売化を決定→一種の社会主義(国家主義?)といえる。
ここで用語の定義をしておくと、社会主義とは問題となる経済圏の利益を最優先する考え方、国家主義とはそれを国家レベルに拡張したそれ、自由主義とは個人の利益を最優先するそれである。
23頁 樟脳業者にとって死活問題だった、「商人どもは手前の損得しか考えん!」
→まさに自由主義である。
25頁 樟脳油の価値をいち早く見抜き利益を得る。
29頁 相場が混乱し始め→需要が供給を上回る局面が出始めた。
戦争当事国が手持の物資だけでは足りなくなり(財が尽きた)、買いを入れ始めた。
当事国の財が尽きる前に戦争が終わっていればこれは起こらなかった。
35頁 戦争による被害を恐れ取引は停滞 商品は値くずれを続けた→これは誤解を生みやすい表現である。
商品が値を下げるのは、「戦争による被害を恐れ」たからでもなく、「取引は停滞」したからでもない。
あくまで「供給が需要を上回った」からである。つまり、この場合は
戦争によって流通が破壊されて、買ったはずの財が自らの手元に届かない可能性の発生→「買い」の減少→結果「売り」が過大となって価格が下落、という風に理解すべきだ。
40頁 第3国間貿易→ある財を需要先で売る、ということであるが、事はそう単純ではない。
通貨が違うという問題はどうするか?これはおそらく外国為替手形で解決し、最終的な決済は金または国際通貨ポンドで解決していたのであろう。
あるいはこの時代、事実上の基軸通貨であった国際通貨ポンドで最初から決済できたのかもしれない。
42頁 航海中に見つけだす→需要があることがほぼ確実であることが分かっているからできる作戦
48頁 無茶な金額とは思いません→妥当。
ここでは、50万ポンドという手付金の大きさに驚いているわけだが、言うまでもなく手付金とは商品の代金の一部であり、いずれは支払わねばならないものである。それに驚いているということは、現時点でこの手付金にも困るほど持ち合わせがない、と取られても仕方がない。
53頁 大多数の国民は貧困にあえぎ→ 富が産業界側に集まっていたことを意味する。これは具体的には、この時期にインフレが進行し実質賃金が低下したことによる。(註1)
54、56頁 間接金融と直接金融である。
西川の機関銀行の設立と高畑の株式の公開という対比である。
55頁 今の不良業種は必ず将来国家を支えるものとなる
→将来の需要増を見込む。
製造ノウハウ、人を育てる・・・然るべき時に備えて
74頁 不況なんぞ新事業の洪水で・・・
→公共事業の一種、といえる。それを一社でやろうとしたわけだが、政府の公共事業と違うのは自社に利益を集中させるのが難しいものには手を出せない、ということである。ただしここではそんなことはお構いなしに、ひたすら新事業を起こして雇用を増やし景気を良くしようとしたとみられる。
その結果→78頁
深刻な反動不況→戦争終結により需要の大部分が失われた。
83頁 全く私欲じゃなく・・・
→”私心無く罪を犯す人々”経済学とは関係がないがここに記しておきたい。
94頁 震災手形整理法案成立が三井の怒りを買いコール市場から金を引き揚げる――台銀がコール市場から金を借りることができず鈴木の融資を拒絶――鈴木金返せず倒産
という流れであるが、これが鈴木単体で終わらずほかの企業にも波及していれば将棋倒し的連鎖倒産となり典型的な信用恐慌となる。法的にもこの時代会社更生法などのような救済策も整備されておらず一気に倒産したものと思われる。
また昭和2年という年は金融恐慌の年であったことにも注意しておきたい。
註
(1)『経済学大辞典V』235頁参照。
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