通貨というものが進化していったその行き着く先には、単に何らかの財と交換できる権利の標章があるということは昔から言われていることである。ビットコインに代表されるデジタル通貨はその通貨の最終進化形態となるのだろうか?
ビットコインの問題点は二つ。
一つは、通貨量を自ら限定してしまっていることである。これにより管理通貨制度の最大の利点である、状況に応じて通貨量の調節が可能という旨味を捨ててしまっているのである。
ビットコインは埋蔵量が2100万BTCと決まっている(註1)。つまり、本来金のように埋蔵量が有限でなく、必要に応じていくらでも増やせるはずの信用通貨に自ら足枷を嵌めてしまったのである。これは言い換えれば財の総量の変化に対応することが困難ということであり、その時そのときの相場によって価値が乱高下する。この点についてはDogecoinのように総発行枚数の限定がないデジタル通貨の方がより将来の情勢の変化に対応する力があるといえる(註2)。
ではどうすれば良かったのかというと、採掘というそれ自体殆ど何の価値も生み出さないように見える行為に対してのみビットコインを付与するという過程をとるのではなく、何らかの価値と交換させるという形態をとって貨幣量を増やしていけば良かったのである。(これ自体は信用貨幣の信用の源泉、経済成長または新通貨への切り替えという問題に接続する。ここでは論外とする)
もう一つはセキュリティの問題である。これはかなり深刻な問題である。
デジタル通貨の価値を保証するには現実に各国で使用されている通貨並みにセキュリティを確立させることが大前提である。ハッカーによって簡単に盗み取られたり、「偽造」されているようでは価値はない。中央銀行のように通貨の発行権を一つの機関に集中させるというのは素材価値がほぼない信用通貨の拠って立つ殆ど唯一の基盤である。
総じて、ビットコインはせっかく本位貨幣の足枷から自由になれたものにわざわざ本位貨幣と同じ足枷を嵌め、しかも本位貨幣が持っていた価値がないといういわば「素材価値を失った金、あるいは本位貨幣の抜け殻」に堕してしまった。ビットコインの発案者は貨幣というものについての理解があまりにも浅かったと言わざるを得ない。
ハイエクが主張している中央銀行の発行に依らない信用通貨の多数共存とは、まさにこのようなデジタル通貨(248頁)
註
(1)株式会社ストーンシステム 石黒尚久、河除光瑠『図解入門 最新ブロックチェーンがよ〜くわかる本』秀和システム、2017年、21頁。
(2)同上、70頁。
戻る